ソネット技研
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Viaの解析にまつわるあれこれ

2004年2月26日
石飛

”SonnetでViaを解析できますか?”というお問い合わせを非常に多くいただきます。答えは”できます”です。しかしSonnetに限らずシミュレータでViaを解析するまえに知っておくべきことがくあります。この文書はそれらを説明します。


モデルの簡略化

--リアルなモデルより、効率的なモデルを--

ここでは図のようなシンプルなviaを例に検討します。 基板は1.6t FR4を想定しています。 viaの直径は0.8φ,ランド径は1.6φで、sonnetで解析するときに周囲の壁の影響をさけるため、ランドの周囲に基板厚の2倍の余裕を持たせてあります。 基板上部の空気層は基板厚の10倍の16mmとしてあります。

このViaを表現する4種類のモデルを紹介します。


via0.zon via1.zon via2.zon via3.zon
cell size 25um cell size 100um cell size 100um cell size 100um
742subsection 150subsection 113subsection 27subsection
3Sec/frequency 406mSec/frequency 375mSec/frequency 360mSec/frequency
セルサイズをviaの直径の1/32に設定しているので、ランドもviaも丸く、いかにも精度の高いモデルであるという印象を与えます。 セルサイズはviaの直径の1/8です。ランドは丸くみえますが、viaはもはや丸で無く四角に変形しています。直感的にSonnetのモデルの限界という印象を与えます。 ランドもviaも丸でなく、最初から正方形としてモデル化してあります。本来の形状を表していないので大きな誤差が生じるのではないかという印象を与えます。 解析時間も必要なメモリも非常に少なくてすみますが、本来の形状とは何の関連もなさそうに見えます。

ほとんどの方が、見た目の印象の良いvia0.zonのモデルで解析しようとします。一方私が、様々な機会にお勧めするのは3番目の四角いモデルです。右のグラフは上の4つのモデルの解析結果です。あきらかに4つのモデルの結果は非常に近く、4番目のモデルでさえ、 その一見かけ離れた形状にもかかわらず、誤差は最悪5%かそこらです。市販されているインダクタの公差は(かなり良いものでも)5%程度に過ぎないことを思い出してください。

一方、解析時間やメモリには大きな差があります。例えばvia2.zonはvia0.zonの1/8の解析時間です。この例のようにひとつのviaを解析するならたった2.6秒の差ですが、 viaを多く含む複雑な回路では1時間と8時間の違い、あるいは1日と1週間の差になるでしょう。

これは見た目がリアルなモデルよりも、精度を損なわずにリソースを節約するモデルを作ることの重要性の一例です。そして、このことはSonnetに限らず、あらゆる電磁界シミュレータを使う上で必要なことです。


丸い図形を四角に簡略化する

上のvia2.zonで使っている四角の寸法は次のような考えで導くことができます。

[外接する四角柱のインダクタンス]<[円柱のインダクタンス]<[内接する四角柱のインダクタンス]
円柱の直径をDとすると、
外接四角柱の一辺=D
内接四角柱の一辺=D/√2
だから
[D(1+1/√2)/2=0.85Dを一辺とする四角柱のインダクタンス]≒[円柱のインダクタンス]
この考え方は非常にシンプルですが、実用的で、viaだけでなく、非常に応用範囲のひろいものです。実際、シミュレータが今ほど一般的でなかったころは設計の現場で日常的に行われていた考え方です。

板状のviaを使って簡略化する

上のvia3.zonは次の二つの段階を経て導かれています。うまくすれば時間やメモリを大幅に節約できますが、あまりにも大胆なので、許容できる誤差に収まるかどうか確認してから使うべきです。 しかし、この方法は"Sonnetよりあらゆる場合に優れていると誤解されがちな有名な3次元シミュレータ"のマニュアルの中にも紹介されています。

丸を平板に簡略化する

上の"丸を四角に簡略化する"よりさらに大胆な方法で、"直径Dの円柱のインダクタンスは、幅2Dの平板のインダクタンスと大差あるまい"という仮説に基づいています。

ランド面積

ランドの形状はvia2.zonの半分にしてあります。


Viaの評価パラメータ

--問題に適したパラメータで評価する--

Sonnetも含めてほとんどのマイクロ波用シミュレータは、解析結果を指定しなければSパラメータで表示します。上の4つのモデルをSonnetで実際に解析して結果を表示すると右のような一見不可解なカーブが表示されます。

もし損失が無ければ、このviaのモデルは、非常に小さいインダクタで接地された回路ですから、db(s11)=0になるはずです。右のグラフをよく見れば全周波数でdb(s11)=0になっていることが、わかります。しかし縦軸の目盛りが自動的に設定されているので、微小な計算誤差が大きく拡大されて表示されているのです。

解析であれ、測定であれ、Viaをdb(s11)で評価しても得られるものはありません。


右のグラフでは縦軸をImag(Z11)、インピーダンスパラメータの虚数部に設定してあります。Viaは非常に小さいインダクタンスですから、そのインピーダンスはIm(Z)=ωLになるはずです。グラフの左半分(周波数の低い領域)を見ると、Imag(Z11)は原点を通る直線になっており、この直線の傾きがViaの等価インダクタンスであることは明らかです。

ところが、グラフの右半分では下に凸の曲線になっており、Via(あるいはここで使ったモデル)が純粋なインダクタンスではないことが判ります。


SonnetのVer9からは縦軸をインダクタンスにしたグラフを描くことができます。このViaのインダクタンスは概ね0.63nHであることがわかります。しかしやはりこのグラフは下に凸の曲線で、このViaが純粋なインダクタンスでは無いことを表しています。

Sonnetの右のグラフだけでなく、多くのインダクタンスのデータシートや、測定器の表示も真にインダクタンスを表示しているのではないことに注意が必要です。
それらは
Im(Z)/ω
を表示しているに過ぎません。Im(Z)/ω=Lと言い切れるのは周波数が非常に低い領域だけです。この例のように一見Lが周波数に依存して大きくなっているように見えるのは
Im(Z)=ωL
でなく
Im(Z)=ωL // (1/ωC)
であるからです。


SonnetのSPICE exportの機能を使うとこの寄生キャパシタンスの値を容易に知ることができます。この例ではCは概ね0.35pFでした。右のグラフは Viaの解析結果と 0.65nHと0.35pFの並列回路の解析結果を重ねています。

0.65nHと0.35pFの並列回路は下に凸の曲線ではありますが、sonnetの結果とはまだ一致しません。LCの組み合わせで電磁界解析と同じ結果を得るにはより多くの寄生素子を含めた等価回路を導入する必要があります。それよりはSonnetの電磁界解析モデルを使ったほうが簡単で正確です。

これらのグラフについての見当から次のことが判ります。

  • Viaを評価するにはIm(Z)のパラメータが適する。
  • Viaを純粋なインダクタンスとみなせる低い周波数領域ではLで評価してもかまわない


Sonnetの限界

--本当の3次元シミュレータが必要な場合--

上の例のモデルではSonnetをつかって、いわゆるFull 3Dシミュレータよりも正確な結果を早く得ることができます。しかし、本当のFull 3Dシミュレータの方が優れている場合もあります。ここでは敢えてSonnetに不利な例をご紹介します。

reso.zon reso1.zon reso2.zon
このモデルはviaではありません。断面が四角な同軸線路です。先端が短絡しているので長さで決まる共振点を持っています。 このモデルの物理的な形状は左のモデルとまったく同じですが、中心導体をSonnetのViaで表現するために方向を90度回転させています。解析結果は左のモデルと同じになるべきですが、ソネットのアルゴリズムでは、明らかに異なった結果になります。Sonnetのviaはその長さが1/4波長に近づくにつれ大きな誤差が生じます。 SonnetでもFull 3Dのアルゴリズムをつかうことができます。このモデルでは右上の角に小さな誘電体ブロックを配置し、z方向にも20分割の離散化が生じるようにモデルを工夫してあります。解析結果は左端のreso.zonと酷似していますが、周波数精度は低く、解析時間も非常に長くかかります。
このモデルをSonnetで解析するよりは Full 3Dのシミュレータを使ったほうが早く正確な結果を得られるでしょう。

この問題は長さ15mm,断面が3mm□の先端短絡角型同軸線路です。開放端から見たインピーダンスは5GHz,15GHzで∞,10GHzで0になるはずです。この構造は90年代に移動体通信機向けのフィルターに盛んに用いられました。
左端のreso.zonでは、この長さ15mmの線路をsonnetのxy平面に横たえて配置しました。中心導体は1mm□なのでThick metalモデルを使っています。解析結果は理論的に納得できるものです。中央のreso1.zonは、モデルを90度回転させて中心導体をviaで構成しています。解析結果は明らかに間違っています。このようにviaの長さが1/4波長を越える場合、sonnetはvia自身の共振を正しく再現できません。幸いにしてこのモデルは"via"と呼ぶにはあまりにも長すぎます。冒頭の例であげたような一般的なviaでは、sonnetのこの弱点が現れることはまずありません。
右端のモデルは誘電体ブリックを巧妙に使って、このvia自身の共振を再現させるモデルです。解析結果は明らかに改善されていますが、計算時間は非常に長く、精度も不十分です。このモデルは”SonnetでもFull 3Dのモデルを扱うことができる”ことを示して居ますが、同時に”Sonnetがこの問題に適していない”ともいえます。


結論

--問題に適したシミュレータとモデルを選ぶ--

viaを純粋なインダクタンスとみなしうる場合
sonnetでviaだけを解析し、等価インダクタンスを求めれば十分です。
インダクタンスの周波数特性が問題になる周波数領域
ランドを含めたviaモデルをsonnetで解析し、インダクタンスとキャパシタンスを含んだspice 等価回路を求めてください。
viaの長さが波長に対して無視し得ない場合
viaそのものの解析にsonnetは最適のシミュレータではありません。full 3Dシミュレータとの併用をお勧めします。ただし、回路全体のパフォーマンスを解析する場合、多くの場合、via単独の特性よりも他の回路パターンが支配的であるはずです。そして回路パターンの解析にはFull 3DシミュレータよりもSonnetが適しています。viaを正確に解析することが本当に重要かどうかをよく検討してください。
見た目のモデル形状のリアルさを追及しない
円形のギザギザ、四角などモデル形状の簡略化は、見た目の印象ほど誤差を生じません。モデルを適切に簡略化して効果的な解析を行ってください(これは上記3番目のViaの長さが無視できない場合でも、そしてSonnet意外のFull 3Dシミュレータを使う場合にもいえることです)