共振器のQについて,様々な定義の違いと, 複雑な共振系の周波数特性からQを抽出する方法を二つ説明します.

トップ/ サポート/ TIPS/ Qの意味と抽出法

様々なQ

Qを知ることは,アンテナ,フィルタ,整合回路,その他様々な高周波回路の設計上の基礎となります.ところがQの応用範囲が余りにも広いがゆえに, それぞれの目的に応じて,Qの解釈を考えなければならない場合が多く,これがしばしば混乱の元になっているようです.ここでは様々なQについてその意味を整理します.

大原則

Qとは"蓄えられるエネルギーと消費されるエネルギーの比"です.エネルギー消費の少ない系のQは高く,損失の大きな系のQは小さくなります.

回路トポロジによる違い

回路図に表現できる共振系であれば, "蓄えられるエネルギーと消費されるエネルギーの比"を 回路素子の値を使った数式で表現することができます. その数式表現は前提とする回路トポロジによって異なります.

インダクタ又はキャパシタのQ

インダクタンス又はキャパシタンスのQは 下表の様に求められることが多いです.

インダクタ キャパシタ
回路トポロジ リアクタンスの周波数特性 Q 回路トポロジ サセプタンスの周波数特性 Q

Qが周波数に依存することに注意してください. Qを議論するときは,必ずその周波数を規定する必要があります.

現実のインダクタやキャパシタには必ず寄生素子が存在するので, それらの寄生素子の影響を考慮する場合はこの表の等価回路や数式表現は使えません. 例えばこの文書では チップキャパシタを周波数に応じて三つのモデルから選択するよう解説してあります.

直列又は並列共振器のQ

上記の寄生素子を含めたトポロジは,下表のように直列又は並列共振器になります.

直列共振器 並列共振器
回路トポロジ リアクタンスの周波数特性 Q 回路トポロジ サセプタンスの周波数特性 Q

直列又は並列共振器のQは共振周波数ωoで規定されることが多いです. 殆どの場合L,C,Rの値は周波数に対してほぼ一定です. それゆえ L,C,Rの値をωoよりずっと低い周波数で測定し, それを元にQを計算することができます.

より高い周波数まで議論する場合は,より複雑な回路トポロジを想定しなければならない場合があります.

高次リアクタンス回路のQ

現実の回路は全て, 無限の周波数領域に無限個の直列共振周波数と並列共振周波数を持っています. 多くの場合はそれらの共振周波数のうち最も低い共振周波数だけに着目しますが, それでも,より高次の共振周波数の影響を多かれ少なかれ受けます.

この場合には,Qを等価回路素子値を使って数式表現することは煩雑か,ほとんど不可能な場合もあります. この場合は,目的の共振周波数の周辺でのインピーダンスやアドミタンスの変化から Qを抽出する方が簡単です.後述の半値幅法はその方法の一つです.

直流で開放なリアクタンス回路 直流で短絡なリアクタンス回路
回路トポロジ リアクタンスの周波数特性 回路トポロジ サセプタンスの周波数特性

回路範囲による違い

"蓄えられるエネルギーと消費されるエネルギーの比"をどの領域で規定するかによってQの定義を使い分けることがあります.

例えば右図のように共振器に外部回路を接続する場合に,

と呼ぶことがあります. さらに 外部回路と共振器で消費されるエネルギーは等しいとき Qe=Quとなり,これを"外部回路と共振器が臨界結合している状態"と呼びます. 後述の1port法によるQuの測定では, 臨界結合のとき Qu=Qe=2*QL となることから,QLを直接測定してQuを求めます.

Qe>>Quの時,"外部回路と共振器が疎結合している状態"と呼びます. 後述の2port法によるQuの測定では, 疎結合のとき Qu≒QL となることから,QLを直接測定してそれをQuとみなします.


損失要因による違い

"エネルギーが何によって消費されるか"を明確にするためにQを使い分けることがあります. 例えば右の例で,

を表すとすると と表現されます.1/Qo=1/Qc+1/Qd です.損失要因ごとにQを把握することでQの改良のために 何をするべきかの手がかりが得られます.

アンテナの場合にはさらに

が加わり,1/Qo=1/Qr+1/Qc+1/Qd となります.この時 アンテナに注入されたエネルギーのうち空中に放射されるエネルギーの割合は, η=Qo/Qr となり, これは小型アンテナの本質的な性能を示す重要なパラメータです.


半値幅法でのQの読み取り

測定器やシミュレータの解析結果からQを読み取る様々な方法の中から,もっともよく使われる半値幅法を紹介します.

半値幅法

下図に半値幅法によるQの測定方法をまとめてあります. この図では共振器として仮に並列共振回路を記載してありますが, 半値幅法は如何なる構造やトポロジの共振器でも適用できます.

1port法

上図(a)のように共振器と外部回路を臨界結合の状態にします. 臨界結合を実現するため 測定器の場合は,測定ポートのインピーダンスが50Ωに固定されているので,共振器との間に低損失の整合回路を設けて共振周波数においてS11(dB)が十分小さな値にになるように調整します. シミュレータでは ポートインピーダンスZoを 共振器の共振周波数における等価抵抗EPRと等しく設定すれば臨界結合が実現できます.

この時 S11(dB)の3dB帯域幅 BWと共振周波数 Foから QL=Fo/BW と求まります. 臨界結合状態では Qu=2*QLなので Qu=2*Fo/BW となります.

測定器では,共振器の測定に適した低損失で整合範囲の広い整合回路の実現が困難な場合があります.

2port法

上図(b)のように共振器に二つのポートを疎結合させます. 測定器の場合は,測定ポートと共振器を微小な直列キャパシタンスで接続したり,微小なループコイルを接近させてS21(dB)を測定します. シミュレータでは ポートインピーダンスを 共振器の共振周波数における等価抵抗より十分大きく設定すれば 容易に適切な疎結合が実現できます.

S21(dB)の3dB帯域幅 BWと共振周波数 Foから QL=Fo/BW と求まります. 特に "外部回路と共振器は極めて疎に結合しているので Qu≒QLとなります.

どちらの場合も 共振周波数におけるS21(dB)が十分疎結合でなければ誤差を生じます. S21(dB)=-20dBの時,QuとQLは1%程度違います.
かといって共振周波数におけるS21(dB)を小さくしすぎると,測定のダイナミックレンジが不足します.ダイナミックレンジの問題は測定だけでなくある種のシミュレータでも問題になります.また二つのポート間を直接結合する成分もダイナミックレンジを低下させます.

とはいえ2port法の疎結合の調整は 1port法の整合の調整よりずっと楽なので測定に向いています.

帯域幅の読み取り精度

シミュレータの場合も測定の場合も, 帯域幅BWは共振周波数の上側の3dB低下周波数 F1と共振周波数の下側の3dB低下周波数F2から BW=F1-F2 で求められます. Qが高い共振器ではBWは小さく, F1≒F2です.従ってF1-F2の計算では,桁落ちにより有効桁が大幅に失われるおそれがあります.

測定器には,3dB帯域幅を容易に読み取るための機能を備わっている場合が多いのですが, その機能だけを信じてデフォルトの周波数分解能でQを読み取ると有意な誤差を生じる場合が少なくありません.

シミュレータの場合も同じ理由で,周波数分解能を細かく設定しておく必要があります.

1.6mmFR4基板上にL/S=1/1mm 3.5T 巻いたスパイラル共振器のQを評価するモデルです. SonnetLiteでも解析できるよう,周波数分解能はデフォルトのままにしてあります.

モデル

1portの場合

スパイラルの最も内側の端部と,一回巻のタップの間にポートを配置してあります. ポートインピーダンスは50Ωですが,グラフを表示するときに臨界結合条件に設定し, 半値幅を読み取ります.この例ではQu=42になりました.

1port.zon
2portの場合

ポートから共振器に向かって差動線路を伸ばし先端を短絡してあります. 短絡端が微小ループを構成し,共振器の磁界と微かに結合します. 差動線路の長さが結果に影響しないよう,線路をDe-embeddingしてあります.
この例ではQu=41になりました.

2port.zon

マーカー操作

BWを読み取るためにマーカーが使えると便利です. Sonnet V12以後では max,min,deltaなどのマーカー機能が利用できます.