伝送線路を評価する方法として1portモデル,2portモデルのポートインピーダンスを調べる方法とV12で追加されたモデル全体を評価する方法を紹介します。

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TEM線路の評価方法

あらまし

SonnetでTEM線路を解析する方法を二つの場合に分けて解説する。 一つは断面が一様な線路で、もう一つは断面構造が波長に対して無視しうる短い周期で繰り返し変化している線路である。 前者ではマイクロストリップ線路やコプレナ線路など、基礎的な文献に紹介され、伝播定数を算出する近似式が多数発表されている。これをsonnetで解析するために、ポート断面だけに着目し、非常に高速な解析が可能なモデルを紹介する。 後者の多くは最近考案されたもので高速伝送線路に付随するさまざまな問題の解決手段や、周期構造による新しい性質の実現を目指す構造と言える。sonnetV11まではこの後者の線路の解析結果から伝播定数を直接抽出する手段が無かった。ところがSonnetV12から結合伝送線路行列の抽出機能が実装され、後者の線路の伝播定数を簡単に得ることができるようになった。そこでSonnetV12を使ったこの線路の伝播定数の抽出法を紹介する。

特性インピーダンスが定義できる場合

波長よりはるかに小さな断面が 波長に対して無視できない長さに渡って一様 な線路に対してのみ特性インピーダンスが定義できる。

一様な断面の線路

問題

一例としてマイクロストリップ線路の損失を5GHzで解析する方法を考える。 ここでの目的は図の様に具体的な40x40mmの箱に実装された場合の評価でなく、様々な外部要因を排除して純粋に線路の性質だけを知ることである。 これはアプリケーションと周波数だけが決まって、最初の段階で、線路幅や導体の材質、厚み、基板材料の選択が伝送線路の性質にどのように影響するかを調べるような場面を想定している。

1port modelの例

上の2ポートモデルとポート断面が全く同じで、しかし伝播方向に短いモデルを用意した。 このモデルのboxの長さはたった16mmで、その内側の線路の長さにいたっては0.8mmしかない。
boxの長さは、評価すべき波長の概ね半分にすると最高の精度が得られる。この場合は基板の誘電率から概算して波長は概ね30mmなので約半分の16mmとしている。
box内に収める線路の長さはいくらでも良い。ここでの解析には影響しない。

このモデルの解析結果をグラフでなくResponse Logから評価する。 解析が終わった後 [Project]-[View Log]-[Response Data]とメニューを選ぶと次のようにLogが表示される。

Run 1:  Wed Mar 30 14:34:36 2005.  Frequency Sweep.
        Em version 10.52 on benchmark (LNX-86) remote.
    Frequency:  5 GHz
      De-embedded S-Parameters. 50.0 Ohm Port Terminations.
      Magnitude/Angle. Touchstone Format.
        5.00000000 0.992371 -23.55
        !< P1 F=5.0 Eeff=(3.36946006 -0.0638571) 
        Z0=(52.01165 0.44547168) R=1.54444002 C=0.31497845 
Analysis successfully completed.
この中で重要なのは最後から二行目F=5.0 Eeff=(3.36946006 -0.0638571)の部分である。 Fはもちろん周波数 5GHz で、Eeffは複素実効比誘電率である。これを以下の式で伝播定数γに変換する。
                    2π√(Eeff)
伝播定数γ=α+jβ=j--------------
                       λo
この例ではγ=1.823+j192となる。この実数部は線路の損失を現す減衰定数αで1.823Np/mである。親しみやすい単位に直すには20/ln(10)を乗じて15.8dB/mとなる。
この複素数の計算は最後にexcelシートにまとめてある。

検証

このいささか回りくどい方法は正しいのだろうか? 右のグラフは冒頭の長さ40mmの線路の解析結果である。 不幸にも丁度5GHz付近にはBOX共振モードとの結合があり、正確なS21を読み取ることができない。しかしBOX共振がなければ、概ね0.6dB程度、つまり 15dB/m であり、1portモデルの結果と一致する。

Box共振のない1-4GHzのS21に微かなうねりがあることに注意して欲しい。 s11を同時に描くとこの原因があきらかになる。


この線路は完全に50Ωではないし、あらゆる周波数で50Ωとなるマイクロストリップ線路は理論的に存在しない。従って2portモデルではかならずポート不整合によってS21にうねりが現れ、損失を評価する場合の誤差となる。

まとめ

二つの方法の特徴をまとめる。くれぐれも優劣でなく目的が違う点に注意して欲しい

1portモデル 2portモデル
目的 線路そのものの評価 実装boxの共振や整合損失を含めた評価
boxの大きさ 約半波長 box共振が起こらない程度
portの数 1 2
線路の長さ いくらでもよい。短い方が解析が早い S21が有限な値とみなせる程度に長く。精度を上げるためには十分長くする。
周波数特性 自前の後処理プログラムが必要 sonnetが直接グラフを描いてくれる。
解析時間 早い 遅い(特にコプレナ線路)

1portの評価に必要な複素演算をまとめたエクセルシート gamma.xls

断面構造が変化する線路 V12で追加された方法

port Zoとの違い

V12からは、 Response Viewer(emgraph)で[Output]-[NCouple Line Model]を選ぶと、Cadence Virtuoso Spectreで使用されているRLGC行列を生成するようになりました。 その出力データのコメントの中にZo matrix Eigenvaluesとして線路の特性インピーダンス、そのたの線路のパラメータも含まれています。

この方法で抽出されるパラメータは、V11までの1portや2portモデルの解析結果として現れるZoとは違います。 V11までのZoがポート断面だけに依存して計算されるのに対して、 このV12の方法では線路全体の解析結果から線路パラメータを抽出します。

一例として、左の単なるマイクロストリップ線路と、 右の線路両側に接地導体を接近させたグランド付コプレナ線路を考えます。 両者の特性インピーダンスは直感的には異なります。 左のマイクロストリップ線路の特性インピーダンスは、 右のグランド付コプレナ線路のそれより高くなるはずです。
しかし、 解析結果をグラフ表示するときにPortZO(ポート面での線路インピーダンス)を選択すると
両者のモデルの結果は完全に一致します。 ポート面の形状は両者で全く同じなのでsonnetが出力するPortZoも等しくなります。
ところがN-coupled line modelの出力コメントでは両者の結果は明確に違います。
[Port Zo]はあくまでポート面に接している線路の断面形状だけを評価するのに対して、 N-coupled line modelでは解析空間全体を評価するからです。
この機能は特に次のような線路では重要です。

断面形状が波長より短い間隔で変化している線路

左図は、差動線路ですが、二本の線路が単なる平行線でなく、ねじれています。 V11までのsonnetはこのように線路断面が一様でない線路の伝播定数を直接抽出できませんでした。 V12ではこの線路の低い周波数領域での伝播定数をN-Coupled line modelとして抽出することができます。
ただし右の図でわかるように高い周波数領域では、この線路をTEM線路と見なすことはできず特性インピーダンスを定義することも意味がなくなります。 この線路の特性インピーダンスは、線路のねじりのピッチが波長より十分短い場合のみ意味があることを忘れないでください。
ちなみにV11までのsonnetで、この線路の特性インピーダンスを知るには、 図のようにスミスチャート上にS11をプロットし、S11の軌跡の中心から 線路の特性インピーダンスを読み取っていました。