ボンディングワイヤの電気的特性を回路設計に含める場合, ワイヤ長が概ね半波長以下であれば,Sonnetの電磁界解析モデルで 十分な精度が得られます. ワイヤ長が概ね1/4波長以下であれば,必ずしも電磁界解析の必要はなく, π型のLPF回路を近似式で表現したモデルで回路シミュレーションすれば十分です. ワイヤ長が半波長を超える周波数領域では解析モデルの精度より 製造の安定性が問題になります.その場合ボンディングよりも 短い電気長が実現できるバンプ接続が現実的でしょう.

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結論

ボンディングワイヤの回路シミュレータ用モデル

ワイヤ長がλ/4以下の範囲では,ボンディングワイヤは単なるπ型LPFとみなすことが出来ます. LPFの対地キャパシタンスは パッド面積Sがパッドからグランドまでの距離hより十分大きい場合,すなわち

√S >> h
な領域では
C = εr * εo * S / h
そうでない領域では概ね
C = εr * εo * (S/h + √S)
で計算できます.
直列インダクタンスLはボンディングワイヤの直径dから概ね
6.2+1.7*log(1/d)(pH/um)
で計算できます.


複数のボンディングワイヤが間隔Dを隔てて並行している場合のボンディングワイヤ間の結合係数kは概ね

k=1/5^√(D/hL)
です.ここにhLはボンディングワイヤのループ高さ.


ボンディングワイヤのSonnet向けモデル

ワイヤ長がλ/2程度までは,ボンディングワイヤを他の回路パターンと同時にSonnetで解析することが出来ます. その場合,図のように ワイヤ径d,ループ高さhLのボンディングワイヤを 幅1.75d,高さ0.85hLのストリップ線路で近似した構造に置き換えれば, 計算時間を大幅に節約できます.


考察

ボンディングワイヤが図のように円弧を描くとすると, ボンディングワイヤを流れる電流と,そのリターン電流の経路が電流ループを構成する. この電流ループの大きさにより三つの部分に分けて考える必要があります.[1]


波長より十分小さい領域

ボンディングワイヤ自体は単なるインダクタとみなすことができ, そのインダクタンスLは概ね

L∝ l * log(l/d)
です.
ボンディングパッドは平行平版キャパシタンスとして計算できますが, パッドが小さい場合は周囲の漏れ電界を考慮した補正が必要になるでしょう.

電流ループが波長と同程度の領域

ワイヤ長が波長に対して無視できない周波数領域では, ボンディングワイヤのインダクタンスがワイヤ長に比例しません. ワイヤ長l=λ/2となる周波数でボンディングワイヤのインピーダンスは極大になります. おそらくその付近でボンディングワイヤからの放射も極大になるでしょう.

Sonnetによる電磁界解析でボンディングワイヤの特性を知ることは可能ですが その伝送特性は周波数に強く依存し,広帯域の伝送路としては使用できないでしょう.

電流ループが波長より大きな領域

電磁界解析では,ボンディングワイヤの形状をきちんと再現する必要があり Sonnetでの解析は難しくなります.

たとえ解析ができたとしても, 伝送特性と放射は製造上のばらつきにも強く依存し, 狭帯域の伝送路としても使用できなくなるでしょう. バンプか,あるいは別の特別なフィードスルー構造を 検討しなければならないでしょう.

Sonnetでの解析範囲の検討

以上の考察をSonnetの解析結果で確認します.

右図のボンディングワイヤモデルは はループ高さhL=1mm,基板厚さh=1mm,ループ長l=約3mmでおよそ
25GHzでワイヤ長l=λ/4
50GHzでワイヤ長l=λ/2になります.


ボンディングワイヤのインピーダンスの虚数部をプロットしてみると 概ね25GHzまでは周波数に対して直線的に変化していて この領域まではボンディングワイヤをインダクタンスとみなすことができそうです. そして 60GHzに並列共振点があり,この周波数がボンディングワイヤが 伝送路として使える限界と言えそうです.

以上の解析結果から

ワイヤ長がλ/4以下の領域では
等価インダクタンスを
ワイヤ長がλ/4からλ/2程度の領域では
共振周波数を
調べれば ボンディングワイヤの電気的特性を十分把握できると言えます.

λ/4以下の領域での等価インダクタンスの導出

単独のボンディングワイヤのインダクタンス

このモデルで ワイヤ径をd=10um,31um,100um
ループ高さをhl=100um,316um,1000umと変化させて
それぞれ30GHzまで解析しました
いずれの場合も20GHz程度までインピーダンスは周波数に比例していることが確認できます.
右図は ループ高さhLとワイヤ径dに対する 15.6GHzでのIm(Z11)をプロットしたグラフです. 15.6GHzではIm(Z11)=0.01*L(nH)なのでグラフからインダクタンスを容易に読み取ることができます.
このデータから近似式
6.2 + 1.7 * log(1/d)(pH/um) 
が得られます


結合したボンディングワイヤの結合係数

グラフは 二つのワイヤを距離Dまで接近させた モデルbw_pair.zonで 二つのワイヤの距離D をループ高さhL の0.2倍から5倍まで
ループ高さを100umと316umに変化させた結果です.

結合係数kは Imag(Z21)/Imag(Z11)なので,このデータから近似式

k=1/5^√(D/hL)
M=k * L
が得られます


λ/4からλ/2の領域でのSonnet向け簡易モデル

階段近似モデル

上記のSonnetの解析モデルでは 円弧を描いたボンディングワイヤを, 右図のように 階段状のモデルで近似しました. 円弧を(π/2/N)毎の角度で分割し, 円弧に内接する階段と外接する階段が考えられますが, 上記の検討ではN=5の外接モデルを使いました.

しかし多数のボンディングワイヤや他の主たる回路パターンを同時に電磁界解析するためには 実用的な解析時間で解析できるようにモデルを単純化する必要があります.

以下ではこの階段近似モデルの妥当性を検討し, より単純なモデルを求めます.


並列共振周波数

N=1,2,3,4,5で,しかも外接,内接の場合で解析してみると 並列共振周波数は最大±10%変動します.

特にNが小さいとviaの長さが波長に対して無視できない長さになるので Sonnetの解析モデルでは原理的に誤差が大きくなってしまいます.

インダクタンス

同様にインダクタンスも最大±10%変動しました. N=1で外接するモデルは最もインダクタンスが大きく, N=2で内接するモデルは最もインダクタンスが小さい結果になりました. Nが大きい時は概ねその中間に収束します.

右図の モデルbw_simple.zonのように ループ高さhLに対して,高さ0.85*hL,長さ2*0.85*hLの形状で近似すると 解析負荷を大幅に小さくしながら,階段近似による誤差を最小にすることができます.


円形ワイヤとリボンワイヤ

Sonnetで円形断面の導体モデルを扱うことは 解析負荷が非常に大きく現実的ではありません. もし断面が波長より非常に小さければ, 円形の断面と等価なリボン断面の導体に置き換えることが出来ます.

例えば文献[2]によると 円形断面の導体のインダクタンスLroundと リボン状断面の導体のインダクタンスLribbonはそれぞれ

特に簡単のためにk=2とする場合もあります. これによる誤差は d=0.001cmのとき -1.8% d=0.01cmのとき-2.5%に過ぎません.


文献